『彼女、お借りします』の宮島礼吏が語る漫画作りの極意!

週刊少年マガジンに掲載された「漫画家(プロ)への花道」を特別に大公開! 本連載では、マガジン誌面でプロとして活躍している”あの”先生、”あの”作品の作家に、プロの感覚、目の付けどころ、意識していることなどをインタビュー。 講談社に持ち込んだ投稿作品を、自ら審査してもらったりもしているぞ! 今回は、2019年14号に掲載された宮島礼吏先生編の前編をお届け!

『彼女、お借りします』の宮島礼吏先生、新人・宮島礼吏を斬る!

【斬り所①】「描きたいもの」無さすぎ!

担当A

まず、『プールの仙人掌』を読み返してみて、一番気になったところはどこでしょうか?

宮島礼吏先生

全部気になりますけど、一番は作品の根本である 「テーマ」や「題材」の部分です。

担当A

「題材」と言えば、たしかに「ビリヤード」の漫画であることには驚きました。ビリヤードをやられていたり、お好きだったりしたのでしょうか?

宮島礼吏先生

やっていた、というか遊び程度ですね。みんな一度くらいはやったことあると思うのですが、そのレベルです。

題材に選んだ理由は、他の投稿作と被らないことを狙ったからなんです。

担当A

では「ビリヤードが描きたかった」というより、戦略的な理由からだったんですね。

宮島礼吏先生

そうですね。でも、だから「佳作」ではなく「選外佳作」だったんだと思います(笑)。

「ビリヤード」という題材でオリジナリティを出そうという気持ちはわかりますが、題材の扱い方が良くないですね。

結局テーマとしては「『強さ』よりも『楽しさ』が大切である」という(図1、図2参照)、少しありきたりなものになってしまっています。

本当にそのテーマを扱いたいなら、他のスポーツの方が描きやすかったかもしれない。

またビリヤードを扱うなら、ビリヤードがどういうスポーツか、その中にある「少年誌らしいところ」はどこか、という「切り口」を考えた方がオリジナリティのあるものになったように思います。

図1:主人公の椛。「最強」の一族に生まれ、強くあることを義務付けられている。
図1:主人公の椛。「最強」の一族に生まれ、強くあることを義務付けられている。
図2:主人公とは対照的な好。「楽しさ」を大切にする、自由奔放な少年だ。
図2:主人公とは対照的な好。「楽しさ」を大切にする、自由奔放な少年だ。
担当A

「描きたいもの」からではなく、「被らない題材」というところから考え始めていた、ということでしょうか?

宮島礼吏先生

はい、「逆」になってしまっていたと思います。アホですね(笑)。

だから、周りを肉付けしてオリジナリティを出そうとしていますが、根本の部分がありきたりなので、最終的にいまひとつグッと心に響かないです。

やっぱり面白い作品って、その「テーマ」や題材の「切り口」の時点で個性があって面白いんですよ。そのことに若いうちから気付けている作家さんは、「才能があるなぁ」と思いますね。

僕自身、当時はおろか、本当に最近気付いたくらいなので。

担当A

なるほど、まずは自分なりの「描きたいもの」が大切なんですね。では、その「描きたいもの」はどのように見つけたらいいのでしょうか?

宮島礼吏先生

うーん、難しいですね(笑)。なかなか教えられてどうにかなることじゃないと思います。

自分で気付くしかないというか。毎日、何かを得ようとして、考えて生きていないといけないんだと思いますね。

もし見つかったら、次はそれを読者に読み取ってもらえるように意識して描いてほしいです。読者が読み取って初めて、作品としてのゴールだと思うので。

逆に、「描きたいもの」をわかりやすく伝える「見せ方」は、勉強して覚えられることだと思うので、たくさん勉強してほしいと思います。

【斬り所②】「描きたいもの」無さすぎ!

担当A

先ほど、自分なりの「描きたいもの」がない話になっている、とおっしゃっていましたが、それ以外で気になったところはありますか?

宮島礼吏先生

「絵」が気になりますね。何より、情報量が少ない。背景も少ないです。

例えばこの、椛が床で寝ている好に気付かず頭を踏んでしまうシーン(図3)。これでは床の素材がわからないですよね。

「表現する」というのは、それがどういうものなのかを「表に現す」ってことなので、これが目である、これが口である、こういう顔をしている、っていうことと同じように、壁や床の質感も伝えるべきだと思います。

それが「臨場感」にもつながるんじゃないかと。

同じように、誰が、どこに、どれくらいの距離間でいる、ということを伝える絵も少なく、わかりにくいです。

図3:例に挙がったコマ。たしかに、床の素材は木なのか、木ならそれはボロいのか、新しいのか。そういったことが伝わらず、臨場感がない。
図3:例に挙がったコマ。たしかに、床の素材は木なのか、木ならそれはボロいのか、新しいのか。そういったことが伝わらず、臨場感がない。
担当A

絵の情報量が、臨場感とわかりやすさにつながるんですね。では、なぜ情報の少ない絵を描いてしまったのだと思いますか?

宮島礼吏先生

「描きたい絵」が多いからだと思います。

新人の頃は「描きたい絵」がたくさんあって、それに固執してしまっていたことを、よく覚えています。でもそれは実は「描きたくない絵」を描きたくないだけだったんだと思うんです。「情報」が多い絵は大変ですし。

でも、今は「描きたい絵」はラストに一つあればいいと思っています。「伝えたいこと」と「描きたい絵」、その二つが合致した見開きが、ドーンとあれば。

あとはそのシーンがいかに盛り上がって見えるかということに終始すべきであって、そこに至るまでは「描きたい絵」よりも「情報」の方が大事だと思います。

この作品は、そもそもラストの見開きの「伝えたいもの」がしっかり定まっていないにもかかわらず、他の細かいところで「描きたい絵」を優先しているところが多く、めちゃめちゃ腹立ちます(笑)。

図4:描きたい「キャラクター」を中心に描きすぎて、誰がどこにいるのかが伝わりにくくなってしまっている。
図4:描きたい「キャラクター」を中心に描きすぎて、誰がどこにいるのかが伝わりにくくなってしまっている。
図5:よく描き込まれた、ハイレベルな絵!でもそれが多すぎても、逆効果に…。
図5:よく描き込まれた、ハイレベルな絵!でもそれが多すぎても、逆効果に…。

【番外編】本作品の「褒め所」は?

担当A

ここまで、ダメなところをたくさん挙げていただいたので、ここは頑張って描いているな、というところを教えてください。

宮島礼吏先生

上限50ページという制限の中で、話をまとめ切ったところはなかなか頑張っているなと思います。

ただ、今思うと50ページでやるべき内容ではないですね……。やるなら70ページくらいかける話だと思います。

頑張って収めたとは思いますけど、根本的にその目測を間違えているので、全然ダメですね(笑)。

担当A

……結局ダメ出しになってしまいました。他にはありませんか……?

宮島礼吏先生

構成面での「読み切りの作り方」みたいなものは押さえられていると思います。

ただやはり、頭でっかちに作ってしまっていて、結局最後に「描きたいもの」 がないので、グッとこないですね。

だから「選外佳作」 なんじゃないでしょうか(笑)。

担当A

ああ……やはりダメ出しに……。

宮島礼吏先生

読み切りは「25ページ」でいい!

担当A

では最後に、新人賞を目指す皆さんに一言お願いします!

宮島礼吏先生

話を詰め込み過ぎないで、と言いたいですね。

上限が50ページなら、内容自体は25ページくらいで描ける話でいいんです。
残りのページは「それを君はどう描くんだ?」っていうところに、全部使って欲しいと思います。

70ページ分くらいあるような大きい話を凝縮したものだと、話を伝えることに終始してしまって、意外とその人の良いところが伝わらない作品になってしまうと思うので。

それがこの作品なんです(笑)!

皆さんはそうならないように、頑張ってください!

担当A

ありがとうございました!


                                                            宮島礼吏先生
宮島礼吏先生
2005年『プールの仙人掌(サボテン)』で第75回新人漫画賞選外佳作受賞。その後、「週刊少年マガジン」にて、『AKB49〜恋愛禁止条例〜』を連載。 現在連載中の『彼女、お借りします』は若者から大人気で、「週マガ」の看板作品の1つ。
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