〜漫画家を目指すキミに贈る〜【諫山創先生 編】


週刊少年マガジンに掲載された漫画家(プロ)への花道を特別に大公開!! 今回は、2017年40号に掲載された諫山創先生編の前半をお届けします!

キミも続け!諫山先生の連載までの軌跡!!

第99回新人漫画賞の特別審査委員長を務めた諫山創先生に直撃インタビュー! ここでしか訊けないレア情報を前半と後半に分けて、2回連続でお届け!!
前半は諫山創先生が連載を勝ち取るまでの軌跡をもとに、新人時代の心得や連載デビューまでの流れを大公開!!

〜持ち込み・投稿〜

担当A

漫画家としての歩みは編集部への「持ち込み」や漫画賞への「投稿」から始まることが多いと思います。週刊少年マガジン編集部に持ち込みをされた、当時の状況を教えてください。

諫山創先生

持ち込みをしたのは19歳、当時通っていた専門学校の集団持ち込み会で上京した時でした。

いくつかの少年誌の編集部へ持ち込みをし、最後に持ち込んだマガジン編集部で「絵に力がある」と評価をされて担当がつくことになりました。

担当A

実際に持ち込みで編集者に見てもらった時はどんな心境でしたか?

諫山創先生

緊張して、胃が痛かったのを覚えています(笑)。

漫画家志望者にとって持ち込みは、就職活動の面接みたいなものなので当然緊張します。

ですが、当たって砕けろの精神で原稿を持ち込みました。

漫画家になるという夢は、小学生からの夢だったので、一度「ダメだ」と言われないと諦めがつかないという気持ちと、自分の原稿をプロである編集者に一度は見てもらいたいという想いから、原稿の持ち込みをしました。

担当A

どうして学校の先生ではなく編集者に見てもらいたいと思ったのですか?

諫山創先生

「読者代表」である編集者さんの客観的な視点を自分の作品に取り入れたいと思ったからです。

客観的な意見を取り入れることで、自分の中の「描きたいもの」を、より多くの読者のニーズも近づけていくことができると考えています。

自分の描きたいものと世間のニーズが一致するかどうかは運の要素が強いものだとは思います。

ですが、その運を少しでも引き寄せるために、客観的な視点というものは大きな武器になってくると思います。

その方法として、僕は「持ち込み」という手段を選びましたが、「持ち込み」であれ「投稿」であれ、とにかくプロの編集者さんに作品を見てもらうことが、新人にとっては一番いいと思います。

なので、編集者が選考する「新人漫画賞」は、漫画家になる第一歩として良い機会になると思います。

「絵に力がある」と編集者に評価された持ち込み作品。
「絵に力がある」と編集者に評価された持ち込み作品。
担当A

では、持ち込みをした『進撃の巨人』のプロトタイプとなった読み切りが、その「プロ」の編集者に評価された時はどのような気持ちでしたか?

諫山創先生

記念受験的な気持ちが強かったので、週刊少年マガジンで「月例賞に出したい」と評価してもらった時は、「え?」と信じられない気持ちでいっぱいでした。

どちらかというと、持ち込みの際、マガジン以外の編集部で指摘されてきた「拙さ」の方が、自分には納得のいく評価だったんです。

でも、誰かに自分の漫画を認められるという経験は初めてだったので、とても嬉しかったです。今思うと、「面白い漫画を描きたい」という気持ちが伝わって、そこを担当さんは買ってくれたのかなと感じています。

担当A

「拙さ」を抱えていたとおっしゃられましたが、具体的にどのような課題があったのでしょうか?

諫山創先生

基本全てですが、特に絵ですね。プロを目指せるレベルではなかったと思います。

でも、絵のレベルを自覚しながらも上手くなろうという気はありませんでした。今考えると絶対によくない態度ですけどね(笑)。

なぜなら、当時はネームが面白ければそれでいいと思っていたからです。

専門学校生時代も、他の生徒たちが絵の練習をしている中、ずっとネームに時間を費やしていました。

でも、奨励賞受賞後、佐藤友生先生のアシスタントをさせていただいていた時に、何もできないどころか、何かをやれば先生の余計な手間を増やしてしまうという苦い経験を経てからは、画力はネームと同じくらい重要だと気づきました。

賞を目指そう! 〜MGP・新人漫画賞〜

担当A

初めて持ち込みをして、MGP(マガジングランプリ)に出した作品で佳作を受賞されたんですよね。

諫山創先生

はい。福岡にいたら担当さんから電話をもらい、「佳作を獲りましたよ」と伝えられた時は、びっくりしました。

それまで漠然と思っていた漫画家になりたいという夢が、明確な目標へと変わった瞬間でもありました。

専門学校を卒業後、すぐに賞金を使って上京しました。担当さんに「実はもう上京しました」と電話をした時はとても驚いてましたね(笑)。

担当A

新人漫画賞を目指されていた時、どのような生活を送っていましたか?

諫山創先生

新人賞用のネームを作り始めたのは上京後からで、アルバイトをしながら担当さんと打ち合わせを重ねました。

そのネームのために何回打ち合わせをしたかはもう覚えていませんが、ネーム一発OKとはいきませんでした。

また、新人賞用のネームを描いていた時は、画力向上のために担当さんから指示された模写のトレーニングも並行して行っていました。

高校時代にも模写は行っていたのですが、当時は気に入った絵だけを模写していたのに対して、担当さんから指示された練習法はページ単位での模写をするというものでした。

ページ単位で模写することによって、コマ割りや効果線・効果音の位置などの勉強になりました。

主に模写していたのは、瀬尾公治先生の『君のいる町』や森川ジョージ先生の『はじめの一歩』で、今でも影響を受けています。

そのような生活を送りながら描いた『HEART BREAK ONE』で第80回新人漫画賞特別奨励賞を、『HEART BREAK ONE』の反省を受けて描いた『orz』で第81回新人漫画賞入選を受賞することができました。

模写トレーニングで絵に更なる力強さが宿った『HEART BREAK ONE』で第80回新人漫画賞特別奨励賞を受賞。
模写トレーニングで絵に更なる力強さが宿った『HEART BREAK ONE』で第80回新人漫画賞特別奨励賞を受賞。

――『HEART BREAK ONE』での反省とは何ですか?

担当A

『HEART BREAK ONE』での反省とは何ですか?

諫山創先生

キャラクターについてです。

当時は、「正しい漫画」を描かなければならないという想いにとらわれていたんです。

話を上手にまとめなければならないとか、上手いコマ割りをしなければならないということばかり考えていました。

でも、『HEART BREAK ONE』を描いて、そうじゃないと思ったんです。もっとふざけていた方が良い、いい加減なキャラクターの方が面白い、と。正しい漫画が必ずしも魅力的な漫画であるとは限らないんだ、と。

それからは、ふざけてやろうという想いで漫画を描いています。自由にふざけることが、その作家の個性や魅力につながると思うんです。

その結果、『orz』の入選に結びついたのだと思っています。

「上手い」ことより「ふざける」ことを意識した  『orz』で、第81回新人漫画賞入選を受賞。
「上手い」ことより「ふざける」ことを意識した 『orz』で、第81回新人漫画賞入選を受賞。

連載へ!

担当A

『orz』で入選を受賞後、どのような過程で初連載である『進撃の巨人』の連載に至ったのでしょうか?

諫山創先生

賞を取ってから、会議で連載が決まるまでに半年くらいかかったのですが、その間に三つくらい新作プロットを描きました。

打ち合わせを重ねていくうちに、その三つのうちのどれでもない、「昔描いた読み切り『進撃の巨人』を連載の話にしませんか?」と担当さんに提案されて、連載版の『進撃の巨人』が誕生しました。

担当A

新人漫画賞特別審査委員長としてどのような漫画を新人作家のみなさんに期待しますか?

諫山創先生

自分の中にある「変態性」を隠さずに表現してほしいと思っています。

漫画を描きたいという時点で、人としてどうかと思うんですよ(笑)。そんな、「どうかしてる人」に僕は用があります。

一般的な社会にいたら許されないようなことを、せっかくならやってみた方がいいじゃないでしょうか。

社会に知られたら生きていけないような性癖とかがあれば、それこそ描くべきだと思います!

新人時代のススメ

担当A

アシスタント経験はあった方がいいと思いますか?

諫山創先生

はい。プロの作業や原稿を間近で見ることができるので画力を向上させることは勿論、仕事の流れや職場の運営方法を学ぶいい場所にもなるのでアシスタントはやった方がいいと思います。

『進撃の巨人』も、佐藤友生先生のアシスタント経験をもとに運営しています。

担当A

漫画家に向いているのはどんな人だと思いますか?

諫山創先生

厳しい意見や失敗を恐れない人だと思います。

例えば、筋トレが好きな人は、筋肉痛を嬉しいと感じます。それは、痛いけど丁度今、筋肉が成長しているということを感じられるからです。

それと同じで、失敗して叩かれたり、否定されたりしてもそれが成長の糧になるんだと喜ぶことができるのは一つの才能だと思います。

担当A

週刊少年マガジン編集部で良かったなと思うところはありますか?

諫山創先生

以前まで、編集部でずっとネームを描いていたのですが、そこで同じ作家さんと会ったりとか、顔見知りができたりとか、そういう作家同士の横のつながりが強くてとても良い刺激をもらえるところです。


                                                            諫山創先生
諫山創先生
第81回新人漫画賞にて『orz』で入選。
別冊少年マガジン2009年10月号より『進撃の巨人』の連載を開始、2021年5月号で完結を迎えた。
連載作品一覧