〜漫画家を目指すキミに贈る〜漫画家への花道 『WIND BREAKER』にいさとる先生が新人漫画家の悩みを解決!

新人漫画家さん必見!! 今回は、第113回新人漫画賞締め切り前特別企画として、漫画家先生へのインタビュー「漫画家への花道」を大公開! 『WIND BREAKER』のにいさとる先生が新人漫画家の悩みを解決しちゃいます!

●極意1

本当に描きたいものは本当に描きたいものではないのかも!

担当A

改めて新人時代〜現在に至るまで、これまで描かれてきた作品ジャンルの変遷を教えてください。

にいさとる先生

新人時代はダークファンタジーの読み切りを中心に描いていました。その後、初連載(1作目)は『男子バド部に女子が紛れてる シークレットバドミントンクラブ』(マンガボックス)で、現代スポーツ×ラブコメを描いて、今は『WIND BREAKER』(2作目・マガジンポケットにて大好評連載中!)でアクションを描いています。

担当A

それぞれジャンルが大きく異なりますが、「新人から初連載(1作目)」「1作目から2作目」とジャンルを変えた段階で、にい先生の描きたいものに変化があったのでしょうか。

にいさとる先生

描きたいもの自体は変わっていないのですが、描きたいものへの理解が変わりました。
 新人の頃はダークファンタジー作品が好きで憧れもあったので、ダークファンタジーを中心に描いていたんです。ただ中々上手くいかなくて…。ガラッと変えた方が良いという担当さんの助言も参考にしつつ、そもそも本当に描きたいものは何なのかをもっと深く考え直してみたんです。
 すると、本当に描きたいものはダークファンタジーという「ジャンル」なのではなく、好きなダークファンタジー作品の根幹にあるキャラクター達のやり取りや関係性など、「人間・キャラクター」部分なのだと気づけたんです。そこからはファンタジーへの固執が無くなって、好きな人間関係を描けるような作品を目指していった結果、1作目はスポーツにラブコメ要素が入った作品になりました。
 描きたいと思っている、もしくは思い込んでいるものを追いかけすぎると辛くなってしまう時があります。上手くいかない時は自分が描きたいと思っているものに囚われすぎず一度立ち止まって見つめ直したり、描きたいと思える他の切り口を探すことも新人時代は大切だと思います。

●極意2

「描きたいもの」と「描けるもの」の重なる部分を見つける!

担当A

描きたいものをそのまま描いてしまっていいのか、そもそもなにを描けばいいのか迷っているという新人さんも多いと思います。にい先生はどのように作品テーマを見つけられたのでしょうか。

にいさとる先生

「描けるもの」と「描きたいもの」が重なる領域を、打ち合わせを繰り返しながらすり合わせるイメージです。
 「描けるもの」とは自分が得意とするもので、プロとして戦える可能性のある武器のことです。描きたい作品がたまたま得意なことを生かせる場合はいいですが、そうでない場合もあると思います。なにより自分の長所は意外と自分でわからなかったりします。自分でいいと思っていたところと違ったり(笑)。なので他人の意見は大切だなと、今も思っています。

担当A

1作目と同じジャンルで2作目も進める方も多い中、異なるジャンルで挑まれた『WIND BREAKER』は、どのような経緯で誕生したのでしょうか。

にいさとる先生

まず自分の場合は、カッコいい男の子を描くほうが可愛い女の子を描くよりも好きだったんですね。かつ、担当さんから長所であるとも言っていただけていました。なのでその長所を生かして「カッコいい男の子がたくさん出せるものを!」とまずは考えました。そこから考えた上で、描きたいと思えた「喧嘩で街を守る」という世界観を掛け合わせて生まれたのが『WIND BREAKER』です。
 でも、「喧嘩で街を守る」というのは口頭だけではイメージされづらい世界観だと思ったんです。そこで、ネームを作る前に世界観をイメージボード(『WIND BREAKER 公式キャラクターブック ㊙ノート』内掲載)に描き下ろして、自分の頭の中を絵にして担当さんに共有しました。
 すると「世界観も良い!」と言ってもらえたので、そこから本格的に連載案を作り始めました。
 自分の中の「描きたい」と「描ける」が上手く重なってくれた、運にも恵まれた作品だと思います。

▲風鈴高校の世界観が分かる一枚。
▲風鈴高校の世界観が分かる一枚。
担当A

ラブコメからアクションへとジャンルを変える際に、作画面での抵抗はなかったのでしょうか。

にいさとる先生

全くありませんでした(笑)。
 元々ダークファンタジーを描いていた頃からアクションを描くのは好きで、スポーツ漫画を描いていた時も「スポーツの動きだって大枠ではアクションだよね。」という話を担当さんとしていたんです。だから、アクションを描くことはむしろこれまでと同じことを描く感覚でした。

●極意3

キャラクター同士の関係から連想して、物語展開上必要なキャラクターを!

担当A

世界観だけでなく、数多くの魅力的なキャラクターが登場するという点も『WIND BREAKER』が人気な理由だと思います。にい先生はどのようにキャラクターを生み出しているのでしょうか。

にいさとる先生

「既存のキャラクター(A)に、こんな新しいキャラクター(B)をぶつけたら、どんなストーリーが生まれるだろう?」と想像して作っています。ある種、連想ゲームのような発想法です。
 例えば、主人公の桜は風鈴の外から来た子(A)なので、そんな桜と対立するような風鈴の内側の子(B)が必要だなと思って生まれたのが杉下です。どうすれば強い対立関係になるかというところから杉下のキャラを作っていった結果、初対面の桜と杉下の喧嘩シーンが誕生しました。
 他にも、仲間に愛されるリーダー梅宮(A)がいるので、対立構造として作ったのが兎耳山(B)です。そして2人の関係から生まれたのが、風鈴vs.獅子頭連のストーリーでした。さらに、リーダー兎耳山(A)に対して、リーダーを心酔する十亀(B)からは、獅子頭連のバックストーリーが生まれましたね。
 キャラクター同士の「対立」はストーリーを生んでくれるので、物語を展開していく上でも必要不可欠だと思っています。今でこそたくさんのキャラクターが登場していますが、連載初期の段階では風鈴の数キャラ分の構想しかありませんでした。連載を進めていくにあたって、この子がいるからこんな子が必要、という流れで新しいキャラクターが生まれていって、それと同時にストーリーも生まれていきました。獅子頭連も、連載中に誕生しています。
 勿論、中には蘇枋のような見た目から作った子もいますが(笑)。

▲てっぺんを心酔する杉下京太郎と、てっぺんを獲りに来た桜が対立する初対面シーン。
▲てっぺんを心酔する杉下京太郎と、てっぺんを獲りに来た桜が対立する初対面シーン。
▲兎耳山を心酔する十亀条。
▲兎耳山を心酔する十亀条。
▲キャラ人気投票ランキング三連覇中の蘇枋隼飛。
▲キャラ人気投票ランキング三連覇中の蘇枋隼飛。

●極意4

キャラは生い立ちを決める!

担当A

数多くのキャラクターを描かれる中で、それぞれのキャラを立たせるために何か意識されていることはありますか。

にいさとる先生

作中では詳しく描いていなくても、メインキャラはそれぞれ生い立ちを決めるようにしています。
 そうすると、「こんな生い立ちがある子だからきっとこう言うな」とか、「きっとこんなことは言わないだろう」というようなキャラクター特有の言動や思考に結び付いていきます。その積み重ねが結果的にそのキャラ「らしさ」に繋がって「らしさ」はキャラの魅力になってくれます。
 担当さんとの打ち合わせでも生い立ちは役立っていて、「この子はこの生い立ちがあるからこうだ」といったように、同じキャラクター像を共有しながら物語を作りあげることができています。

▲仕草からも桜の生い立ちを感じさせる一枚。
▲仕草からも桜の生い立ちを感じさせる一枚。

●極意5

シルエットでもキャラクターの差別化を!

担当A

キャラクターを差別化するために、何か他に意識されていることはありますか。

にいさとる先生

シルエットが被らないように気をつけていることです。特に、髪色が同じキャラは意識して描き分けています。一番分かりやすい例は、どちらも白髪のキャラクターである梅宮と兎耳山ですね。この2人は見ての通り、子供っぽくて可愛らしい小柄な兎耳山と、大人っぽくてお兄ちゃん系で大柄な梅宮というように、思いっきりシルエットで描き分けています。
加えて、キャラクターがたくさん登場する作品なので、似たような子が周りに集まらないようには気を配っています。例えば、吊り目のキャラクターの近くには、丸目やタレ目のキャラクターを置いていますね。

▲シルエットが大きく異なる梅宮一と兎耳山丁子。
▲シルエットが大きく異なる梅宮一と兎耳山丁子。

●極意5

ネームはとにかく読みやすく!

担当A

「あっという間に読み終わってしまった」という感想をよく見かけるほど、テンポ感が良いことも『WIND BREAKER』の魅力の一つだと思います。にい先生はネームを作る際、展開や読みやすさなどの点で意識されていることがあるのでしょうか。

にいさとる先生

基本的なことですが、吹き出しの順番や、誰が話しているのかがしっかりとわかるような、漫画としての読みやすさには気をつけています。初めは担当さん、最後には読者へ。作品は自分以外の人に読んでもらうものですから。

担当A

ネームを書かれる中で、悩んだ時はどのようにしていますか。

にいさとる先生

悩みながらも、もうとにかく手を動かして描きながら考えます! こればかりは新人時代から変わらずで、連載を目指していたあの頃も、連載中の今でも、ずっと必死に悩みながら描き続けていますね(笑)。
 辛い時があるのは皆同じで、とりあえず描いてみる、描き続けることが大切なのだと思います。

担当A

最後に、新人作家さんに向けてメッセージをお願いいたします。

にいさとる先生

漫画に一発逆転はなくて、地道に少しずつクオリティを上げる作業や努力の積み重ねなのだと思っています。何ができるか今でも日々考え続けていて、なかなか上手くいかなくて大変な時もあります。
 それこそ新人時代は理想の天才漫画家像を掲げて、どんなに頑張って描いても天才(それ)になれない自分が嫌になって、ひたすら苦しんだりしていました。
 新人の皆さんの中にも、自分の理想像を高く持ち過ぎて、かえって自分を苦しめている人がいるんじゃないでしょうか。目指している漫画家の定義はそれぞれ違うと思いますが、高すぎる理想で自分を苦しめすぎないようにして欲しいです。作品を作るだけでも本当に大変な作業なので、苦しむのは描くことだけでいいんじゃないかと(笑)。天才になることはできなかったけれど、新人の頃はたまにしか食べられなかった季節の果物を、今は好きな時に何回でも食べられるようになりました。そんな今があるのも、新人時代に苦しみながらもペンを止めず、描き続けたおかげだと思っています。
 だからこそ「とにかく描いて! 描き続けてみて!」とお伝えしたいです。

担当A

本日はありがとうございました!

にいさとる先生

こちらこそ、ありがとうございました!


                                                            にいさとる先生
にいさとる先生